【ひと】武川 登(むかわ のぼる)
藤精機は、設計とものづくりがものすごく近い。
一般的な会社では、設計してからモノができるまでに1ヶ月、2ヶ月平気で掛かります。ここでは、朝、特急で図面を出したら、夕方バッチリできるくらいスピード感がある。自社で工場を持っているのは強みですね。
設計 / 2018年入社
- 藤精機に入られたのは?
2019年3月入社です。まもなく入社1年です。
私、設計がやりたくて、大卒で就職したときからずっと設計部門にいました。プリンタとか、ATM関係とかが多かったかな。動くもの、機構設計を専門にやっていました。設計は大きく分けて、「機構」、「筐体・構造物」の二つがありますが、僕はどちらかというと機構設計をやってきたんです。
しかし、設計のスキルがあまり生かせない部門へ異動となり、「これまでやってきたものが活かせないな」と、なかなか抜け出せずにいました。
それで、設計のできるところを探していたら、たまたま元上司がこちらでお世話になっていて、藤精機に来ました。もうすぐ入社一周年。
- それ程にこだわりを持たれている「設計」の魅力は?
設計の魅力、(ニヤリ、)ありますね。
ゼロから作るとか、要求されるものを完璧にこなすとか、そういうところに面白みがあります。特にこの会社は、設計からものづくりまでがものすごく近いので。
前の会社は、例えば設計するじゃないですか。そうすると、ものができるまでに1ヶ月、2ヶ月平気で掛かるんですよ。それが当然と思っていましたけど。
藤精機は、特急にすれば、朝図面出したら夕方バッチリできる。それくらいのスピード感がある。そこはやっぱり素晴らしいというか、環境がすごい。
例えば、組立工場でモノ作るじゃない?それをお客様に見せる。「もうちょっとこうしてほしいな」と言われて、「こんな感じでどうですか?」と修正したデザインを見せる。「いいね、これにしてよ」と返ってくる。そしたらそのまま特急でモノ作って、「はい!できました」って(機能を付加した試作品を)見せられる。だからお客様満足度、高いですよ。普通はそうはいきません。自社で工場を持っている、これは強みですね。
- お客様の要求を完璧にこなす
例えば「四角い箱を作ってください」と言われた。これが要件。そこに、例えば角を取って危なくないようにするとか、ピカピカに光ってるとか、そういう価値をプラスする。お客さんが思っているものにプラスαして、満足度を上げる。そういう意味ですね。
お客様の要求を満たしつつ、プラスα。でないと、もし要求されたことだけをやっていたら、ただのコスト競争になる。同じ要求を出したときに同じものしかできないなら、中国とか安い方に行っちゃうじゃない?それも一つの選択だけど。うちとしては付加価値、それが重要かな、と思います。
- お客様の要求って、どんなに話を聴いても、言葉になりきらない部分がありますが?
お客様は「四角い箱でいいよ」って言ったけど、実際の操作を想定してみると、「ここまで外れればいいのに」「こんな形ならメンテナンスがもっとラクになるよね」とか、実はもっと満足したい「はず」のものが見えてきます。大切なのは、自分をお客さんに置き換えること。そうすると、「僕だったらこんなのが良いよね」「使う立場からしたら、こんな機能がついているとイイな」とかね。
そうやって「要求にはなかったけどこういうの付けときました」って提案をするときは、そりゃもう、「どうですか?(ドヤ顔)」って感じ(笑)。それでお客様から、「おっ!すごいですね」なんて言われると最高に嬉しい。藤精機に来てそれができているかというと、まだまだ一年なので……。ただ、そういう気持ちでやっています。
- 逆に大変なところは?
藤精機は板金がメインです。以前の会社では樹脂など他の材料も幅広くやっていました。今は頭の中で、材料を板金に置き換える発想の切り替えが必要です。
特に異なるのはサイズ感。以前は、例えば卓上に乗るくらいとか、ATMとか、それくらいの大きさのものを扱っていました。藤精機は工場の製造ラインとか、サイズ感が全然違いますね。当然それだけの設備も整っているからこのサイズが作れるわけです。
このサイズ感の違いという点で苦労はあります。使うネジ一つ取っても大きさが全然違う。前は小指の先ほどの小さなネジを使っていたけど、今は太いボルトを使う。そういう差が、まだ感覚的にはつかみ切れていないところがあるかもしれません。
- これまでに失敗したことは?
失敗?いっぱいありますよ!極端な話、失敗経験があるからこそ今がある。失敗して、客先行って、調査して直して…、そういう経験がね、いまに活かされている。
自分が設計したところでトラブル起こったら、自分で設計しているので、僕しか分からない。自分で何とかしないといけない。おかげで地方も飛び回りました。とにかく現地に飛んで現物を見て、分析して、それでも全然原因が分からないときもある。現地の補修員に説明して、会議にも同席して、対策を打つとかね。やってきました。失敗だらけでした。
まあ、失敗したその瞬間は落ち込みます。それでも、まず関係者に「スミマセン!」から。これは結構大切なことです。とにかく、トラブル対応はしてきました。
もし、ずっと成功体験しかなければ、トラブルには対応できないと思います。年を取るほど設計スキルが上がるというのは、そういうことでもあります。
なので、そういった経験も活かせるような仕事をしたくて。それで藤精機に来ました。
若い人はCADの操作が速いですね。だけど、飽く迄もCADは設計するためのツールです。設計の本当の部分は「考え抜かれたところ」であって、CAD操作の速さではないんです。それはある程度経験とか実績とか積まないと見えてこない。特にメカの世界は、そういう世界だと思います。
- 理想の設計
欲を言えばね、安くて、性能が良くて、付加価値が沢山ついていて……って色々出てきちゃうけど、バランスですかね、やっぱり。
機能を付けるとなれば、いくらでも付けられる。けれど、それでは価格が高くなってしまう。材料費の問題もあります。
そこで、充分にお客様の要求を満足しながらも、材料選びや扱いやすさ、安全性などのバランス感覚が大事かなぁ、と。そういうところは意識して設計しないといけない。
こだわりと言えば、図面で線を一本引くにしても、なぜこの距離で、なぜこの長さで、なぜこの線を一本引くんだろうって考えたうえで線を一本引くタイプなので、割と設計に時間が掛かる方です。熟考してやる方ですね。
今のツールはやり易いから、若い設計者はまずビュンビュン描いていって、そこからモディファイする、というやり方の人が多いようです。でも、「なぜこの位置にこの線があるの?」と尋ねると、答えられない設計者も多い。
- (2020年2月現在)課長である武川さんは、設計のプレーヤーとしての立場に加え、管理者としての立場があります。二つの立場に違いはありますか?
もちろん、だいぶ変わりますよ。チームの中で、メンバー個人の意見を尊重するようにしています。僕の中では「こうしたらいいのにな」と思うようなことでも、彼は彼なりの考えがあってやっているのだろうし、本人の設計を活かしつつ改善してもらう。そういうことは気にしています。
あとは、設計し易いような環境づくりをするために、なるべく外乱が入らないようにとか、内乱はできるだけ堰き止めるとか、意識はしています。実際できているかどうかは分からないけど。
それから当たり前のことですけど、コミュニケーションは大切にしています。「俺は上司だ!」って顔はしないように、フレンドリーに接するようにしています。
- 武川流、フレンドリーに接する
例えば、知ってることも知らない体(てい)で話したり、「分からないんだけど、ちょっと教えてよ。これはどうしてこうなるんだっけ?」みたいな。そうすると、向こうも引かないでちゃんと話してくれる。
「オレは知ってるんだぞ。答えてみろよ」みたいに言うと、引いちゃうじゃないですか。そういうところは知らない体で話すことが多い。
今メンバーは僕を入れて6人。5人をまとめてる。いや、まとめてはいないですね。自由にやってもらってる。
- きつい時、メンバーに対しては?
一時は徹夜ばっかりでしたよ、12月とか。今は落ち着きましたけど、波はやっぱりありますね。
そこはプロフェッショナルとして意識を持ってもらう。「これでサラリーもらってるんだから、途中で投げ出すことなくやり切ろう」って。まず、自分がへこたれちゃマズイので、そこはしっかりするようにしています。でも、みんなよくやってくれています。助かってますよ。
- 会社とは別に、楽しみはありますか?
スポーツを一つ、小学校の頃からサッカーやっていて、逆にそれしかできない。
今はスポーツ少年団の監督をやっています。それが趣味というか、義務というか……、クラブチームの指導をボランティアで。色々しんどい時もありますが、それでも休まず指導できるようにしています。地域の子どもの育成に頑張ってるって感じです。
プレーに関しては、前の会社では昼休みに練習できる環境、つまりグラウンドもシャワールームも、一緒にやる仲間もあったので、続けていました。その点、今は時間があるなら寝ていたいって感じです。年も取ったし(笑)。
- スポーツ少年団での育成と、職場での育成、重なるところはありますか?
たくさんありますよ。
サッカーという競技は、小さな企業とでもいうのかな。一人一人の人間がいろんなことをこなしながら、一つの目標に向かって動く。しかもそれぞれがそれぞれの考えをもって動くので、同じです。
そこで若いころ培ったものが仕事にも役に立ったし、勉強になりますよ。
教えると、さらに頭の中が整理できてくるので、より論理的というか、ロジカルに考えられるようになる。
あとは、人との接し方も通じるものがあります。いろんな子がいるし。スポーツ少年団って、保護者も関わるんです。保護者にもいろんな人がいる。僕の方が多様性を持っていないと噛み合わない。その辺は、いろんなものに対応して、多様性を持てるようになりました。
人との接し方は多様性をたくさん持つ。そういうバランスですね。サッカーは仕事に活きています。
- 日々積み重ねた通りに人生は創られていく
僕の信念は一つ。
私がいつも子供たちに伝えているのは、「日々積み重ねた通りに人生は創られていく」ということ。怠らずに毎日暮らしていかないと、日々やっている通りの人間に、人生に、なっていく。だから、日頃サボっていて、ある時だけ頑張っても、それは本当の君じゃないよって。日々の積み重ね大事にしろよ。誰か有名な方の言葉だったと思いますけど……。
なので、子どもには靴を揃えろとかね、そういうことを指導しています。集まった時も、靴が乱れていると「これじゃ試合勝てないぞ」「コツコツ頑張れ」と。
自分もそうですよ。今日サボりたいな、と思っても、そこで頑張ってみると、見えてくるものがあるし、そうやってベストを尽くしておくと、見える景色も変わってくる。
社会人としてのモラルとか常識とかってね、少年サッカーと結構通じるところがあるんです。
- 経営理念を毎朝唱和しています。武川さんにとっての「幸せ」、そして「幸せな社会」とは?
深いですねぇ。他の人はなんて言ってたの?(笑)
幸せの定義が難しい。普遍的な幸せっていうのもあるじゃないですか?それと、その人しか感じられない幸せってあると思うので。
「ものづくりを通しての幸せ」というと、地域に貢献するとか、社会に貢献するとかだと思います。たくさん売り上げを上げて、税金をたくさん納めるってことですかね(笑)。
世の中で役に立つ製品、例えば医療機器とか、必ずあると思うんです。食品メーカーの仕事でも、人が笑顔で美味しいものを食べるところを想像しながら装置を作る。そういうのを意識しながら仕事することが、「ものづくりを通しての幸せ」かな。直接的でなくても、間接的にでも、自分のしているものづくりと誰かの幸せが、どこかで繋がっている。エンドユーザーが安全に、楽しく、便利に、そういう製品が作れればいいかな。
「人づくり」という面からすると、難しいですね。この会社はしっかりモラル持った人が多いので、そういうところは素晴らしいかな、と思いますね。
スポーツ少年団で「人づくり」はしてますけどね(笑)。
例えば、あのピカピカ光ってるの、素敵って思います?
あれ設計課で作ったんですよ。こういうのも人を喜ばせる。だから一つの社会貢献、それでいいんじゃないかなって思います。
- 幸せと思うようにする
「幸せを感じる」というよりは、「幸せと思うようにしている」。
例えば、「今日良い一日を過ごせて有難いな」「仕事に向き合える環境、有難う」とか、ものに色々感謝するようにしています。
だから、不具合があっても、それを乗り越えるとまた一つ成長する。そういう先を見れば、「良いチャンスをもらったな」と、プラス思考をする。結果を喜ぶのではなくて、いろんなことを幸せと感じられるような、逆の考え方を心がけています。
現状は何でも幸せって感じられるかな。そういうのはサッカーを子どもたちに教える中で培ったものですね。「今日の失敗って無駄にならないよね」「今日上手くいかなかったキーワードを見つけられて良かったね」「ここを練習すればもっとうまくなれるじゃん」って。いいチャンスもらったと思えばそうなるし、イヤだと思えば嫌だし。考え方ひとつで全く違いますから。
神様が、「お前だったらこれどう乗り越えるの?」って、「乗り越えてみろよ」って言われたと思えばやる気も出るし、そういう風に考えていますよ。自分の中では哲学みたいになっちゃってますね。
- 未来の後輩たちにメッセージを
前の会社はすごく人数が多い。グループ企業を入れて15万人くらいでしたが、当時はすごく視野が狭かった。藤精機は小さな会社だけど、ここに来て視野が広くなりましたね。なぜかは分からないけど……、いろんなことをやれる環境だからでしょうかね。チャレンジもできるし、ものづくりの環境も揃っているし。お客さんに納品したときの感動も味わえたし。そういう点で、設計者としては、やりがいを感じられる、整った環境です。
大きな会社では、会社の一部、歯車の一部という感じがありました。とかく制約に縛られがちなところもあります。
今、藤精機では、制約はあるにせよ、完全にプレーヤーとして本当にやりたいことを自由にやらせてもらっている。そういう環境です。自分のアイデアで「こうしてみよう」「ああしてみよう」ってできる。結構楽しいですよ。
- ありがとうございます。武川さんのお人柄に触れられたように思います。またお話伺いたいです。
いつでも来てください。こちらこそありがとうございます。
(2020年2月 インタビュー実施)